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大分地方裁判所 昭和48年(ワ)496号 判決 1977年3月02日

原告

佐藤文子

被告

加藤志津代

ほか一名

主文

1  被告らは各自原告に対し金七六万二三四一円及び内金六九万二三四一円に対する昭和四八年一〇月一三日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを一三分し、その一を被告らの、その余を原告の各負担とする。

4  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告等は各自原告に対し金九九二万五七四八円及び内金九〇二万三四〇八円に対する昭和四八年一〇月一三日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告等の負担とする。

3  仮執行宣言申立

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  被告ら敗訴の場合担保を条件とする仮執行免脱宣言申立。

第二当事者双方の主張する事実

一  請求原因

1  被告有限会社田口菓子舗(以下被告会社という。)は、菓子類の製造販売を業とする会社であり、被告加藤志津代(以下被告加藤という。)は、被告会社の従業員であつたものである。

2  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和四五年七月六日午後一時五〇分頃

(二) 発生場所 大分市畑中六九一番地ドライブイン府内前市道上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(大分五ね四七―三七号)

(四) 右運転者 被告 加藤

(五) 被害車両 軽四輪乗用自動車(八大分ほ七一〇〇号)

(六) 右運転者 訴外 後藤宣子

(七) 事故の態様 訴外後藤は、被害車両を運転して前記場所にさしかかつたところ、右側ガソリンスタンドから貨物自動車が発進してきたのでその通過を待つため一時停止したところ、後続進行して来た被告加藤は、これに気をとられて前方注視を怠り、右被害車両の後部に加害車両の前部を追突させた。

3  責任

被告加藤は、前記のとおり前方注視義務を怠つたため本件交通事故を発生させたものであるから民法七〇九条により、被告会社は被告加藤をして、被告会社の所有に属する加害車両を自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条により、それぞれ原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

4  傷害の部位程度

原告は、前記被害車両に同乗していたものであるが、前記交通事故のため外傷性頸椎症頭部外傷の傷害を受けた。原告は、右傷害のため次のとおり入院、通院治療を受けた。

(一) 永富整形外科医院

昭和四五年七月六日から昭和四六年一月二八日まで入院

(二) 大塚外科医院

昭和四六年二月四日から昭和五〇年二月二日まで入院

(三) 大分県立病院

昭和五〇年二月三日から同月七日まで通院

(四) 福岡大学病院

昭和五〇年二月一八日通院

昭和五〇年二月二八日から同年六月二七日まで入院

(五) 森産婦人科医院

昭和五〇年六月二七日から昭和五一年六月三〇日まで入院

5  損害

原告は、右傷害のため、次の損害を受けた。

(一) 休業補償 金七〇万五八〇四円

原告は、住友生命保険相互会社大分支社(以下、訴外会社という。)に外交員として勤務していたものであるが、本件事故前の昭和四五年四月から同年六月までの三ケ月の月平均収入は、金五万六六二三円であつた。従つて、事故発生の昭和四五年七月から原告が本件事故のため、退社を余儀なくされた昭和四七年六月に至る間の休業による損害は次のとおりとなる。

5万6,623円×24月=135万8,952円

原告は、訴外会社から、右期間中の報酬として金六五万三一四八円の支給を受けたから、残額金七〇万五八〇四円を休業補償として被告らに請求する。

(二) 治療費 金四四一万九三五三円

(1) 原告は、本件事故による受傷の治療のため、前記のとおり永富医院に入院したが、その間の治療費は、昭和四五年七月六日から同年一〇月二〇日に至る間のそれは自賠責保険の保険から支払われ、同月二一日から昭和四六年一月二八日に至る間のそれは被告会社から支払われた。

(2) 原告は、引続き前記のとおり大塚外科医院に入院し、昭和四六年二月四日から昭和四八年五月三一日に至る間の治療費は被告会社から支払いを受けたが、同年六月一日から昭和五〇年二月二七日に至る間の入院治療費合計金三〇四万六七四二円については、その支払を受けていない。

(3) 原告は、引続き前記のとおり大分県立病院に於て外来診療を受けて、その治療費合計金五二三八円を支払つた。

(4) 原告は、引続き前記のとおり福岡大学病院において診断を受け、診断料金六九〇円を支払つた。

原告は、引続き前記のとおり福岡大学病院に入院し、その間入院治療費として金二三万八七一六円を支払つた。

(5) 原告は、引続き前記のとおり森産婦人科医院に入院し、その間入院治療費として合計金一一二万七九六七円を支払つた。

よつて、原告は、本件受傷の治療のために必要とした右治療費のうち、自賠責保険金及び被告会社から支払を受けた分を差引いた合計金四四一万九三五三円の治療費を請求する。

(三) 慰藉料 金三八九万八二五一円

原告は、本件事故により前記のとおり長期間の入院生活を余儀なくせられ、一身の生活上並に家庭生活上重大な被害を蒙り、その受けた精神的損害は大きく、これを慰藉するには金四〇〇万円をもつて相当とするところ、自賠責保険から慰藉料に対する支払いとして保険金一〇万一七四九円を受領しているのでこれを差引き、その残額金三八九万八二五一円を被告らに請求する。

6  弁護士費用 金九〇万二三四〇円

被告らが任意に右損害を賠償しないので、原告は、本訴提起をせざるを得ず、原告訴訟代理人は訴訟委任したが、その報酬中、請求額の一割に当る金九〇万二三四〇円は本件事故と相当因果関係がある。

7  よつて、原告は被告らに対し、右損害額合計金九九二万五七四八円及び内金九〇二万三四〇八円に対する被告らに対する本訴状送達の翌日である昭和四八年一〇月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実中、事故の態様は否認し、その余の事実は認める。

3  同第3項の事実は認める。

4  同第4項の事実中、原告が負傷したことは認めるが、その程度は争う。

5  同第5項の事実中、休業補償の主張中の原告が訴外会社から休業期間中の報酬として金六五万三一四八円の支給を受けたこと、治療費の主張中の原告が昭和四五年七月六日から同年一〇月二〇日に至る間の治療費については自賠責保険の保険金から、同月二一日から昭和四六年一月二八日に至る治療費については被告会社からそれぞれ支払を受けたこと、慰藉料の主張中の原告が自賠責保険から慰藉料に対する支払いとして保険金一〇万一七四九円を受領していることは認めるが、その余の損害の主張は争う。

6  弁護士費用の額は争う。

三  被告らの主張

本件事故は、被告加藤の過失のみによつて発生したものではない。即ち、訴外後藤が本件交差点の青信号に従い被害車を発進させ、それにつづいて被告加藤が加害車を発進させたところ、突然右側ガソリンスタンドから大型貨物自動車が発進して被害車の前方を通過したため訴外後藤が急停車せざるを得ず、その結果これに後続進行していた被告加藤が被害車に追突し本件事故が発生したものであつて、本件事故は、主として右大型貨物自動車の運転者の無謀運転に帰因するものである。そして、被告加藤の過失と右大型貨物自動車運転者の過失の割合は、二割対八割とみるのが相当であつて、裁判所は、本件損害賠償額を算定するにあたり右大型貨物自動車運転者の過失を斟酌すべきである。

四  被告らの主張に対する原告の認否

右大型貨物自動車運転者の過失は、損害賠償額算定に当り斟酌すべきではない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項の事実については当事者間に争いがない。

二  同第2項の事実中、事故の態様を除く事実については当事者間に争いがない。

三  同第3項の事実については当事者間に争いがない。

四  同第4項の事実中、原告が本件交通事故で負傷したことは当事者間に争いがない。

五  同第5項の事実中、原告が訴外会社から休業期間中の報酬として金六五万三一四八円の支給を受けたこと、原告の治療費中、昭和四五年七月六日から同年一〇月二〇日に至る分については自賠責保険の保険金から、同月二一日から、昭和四六年一月二八日に至る分については被告会社から支払われたこと、原告が受くべき慰藉料中、金一〇万一七四九円につき自賠責保険の保険金から原告が支払を受けたことは当事者間に争いがない。

六  本件事故の態様について

成立に争いのない甲第一号証、証人後藤宣子の証言並に原告本人及び被告加藤志津代本人の各尋問の結果によれば、原告は訴外後藤宣子運転の軽四輪乗用自動車の助手席に乗車し、本件事故現場の交差点に差しかかつた。訴外後藤は、右交差点の信号に従い、一旦停車し、自己の進行方向の信号が青信号を示したので発進したところ、右側ガソリンスタンドから大型貨物自動車が進行してきたのでこれに進路を譲るため停車したところ、後部から被告加藤運転の普通乗用自動車に追突された。

被告加藤は、本件事故現場の交差点で原告同乗の右軽四輪乗用自動車に後続して停車し、信号待ちをしていたところ、青信号に変つたので右軽四輪乗用自動車が発進した後からつづいて時速約二〇乃至三〇キロメートルの速度で発進したところ、前記のとおり右側ガソリンスタンドから大型貨物自動車が進行してきたのでこれに気をとられ、訴外後藤がこれに進路を譲るために停車したのに気づかず、そのまま前記速度のまま進行し、右軽四輪乗用自動車後部に自車前部を追突させた。右交通事故のため、両車両に損傷が生じたが、両車両の修理費用は、合計約金三万円であつた。

七  原告の受傷と傷害の程度

原告が本件交通事故により、傷害を受けたことは、当事者間に争いがない。そこで、原告の傷害の程度について検討する。

(一)  永富整形外科医院における原告の診断結果と治療経過

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証及び証人永富整彦の証言並に原告本人尋問の結果によれば

原告は、昭和四五年七月九日同病院で初診を受けて同月一四日まで通院治療を受け、同月一五日同医院に入院したが、その際の原告の病名は、いわゆるむち打ち症状(外傷性頸椎症、頸部捻挫)、頭部外傷であつて、その症状としては、頭痛、頸部痛等いわゆるむち打ち症状特有の症状に嘔吐を伴い食欲不振になつて体力が低下する状態にあつた。同医院の医師は、レントゲン検査、胃検査、脳動脈撮影等の諸検査を原告に対してなしたが、その結果原告には器質的な異状が全く認められなかつたものの、嘔吐の症状が続くため、その原因が椎骨動脈に外力が加わりその血流が悪化し脳の中枢に影響を与えているものと判断し、原告を腹部から首、後頭部、顎にかけてギブスで固定し、凡そ、三週間に亘つて右状態のもとに椎骨動脈の血流改善のための補足的治療をした。

その後、同医院の医師は、原告の前記症状が通院治療が相当なまでに軽快したので原告に退院をすすめ、原告は、昭和四六年一月二八日同医院を退院した。しかし、原告は、同医院に通院せず同医院の医師の指示を受けることなく後記大塚外科医院に転医した。

ことが認められる。

(二)  大塚外科医院における原告の診断結果と治療経過

証人大塚正年の証言により真正に成立したものと認められる甲第三、第七号証及び証人大塚正年の証言並に原告本人尋問の結果によれば

原告は、同医院の医師からむち打ち傷害の診断を受け、昭和四六年二月四日から同病院に入院して治療を受けたが、同医院における諸検査によつても、何ら器質的障害は発見されなかつたけれども、その当時の原告のいわゆるむち打ち傷害の程度は、首、後頭部痛、肩の凝りの外、吐き気、嘔吐、下痢等内臓神経症による症状が加わり相当重い部類に属する症状を呈し、同病院の医師から鎮痛剤、鎮静剤の投与、首の牽引、電気治療、神経症状に対する治療等あらゆる治療を試みられたがその効果があがらなかつた。

原告は、同医院に入院中、他の患者との接触にも、医師或は看護婦の一言一句にも敏感に反応し、我がままで、いわれるヒステリー性格者にみられる態度を示し、同医院の医師、看護婦を困惑させ、同病院の医師から精神科の医師の治療こそ必要と考えられたものの、医師がそのことを原告に伝えた場合原告に与える衝撃を考えて、これをすすめることができないまま、従来の治療を継続されてきた。

同医院の医師は、原告に対して種々治療を試みた結果、昭和四六年一二月ころ、原告が批較的精神的な安定をとり戻したため、外出をすすめ、次第に通院治療に切りかえようとしたものの、原告が依頼心が強く、前記のような性格であつたため、これを言い出した場合の原告の反応をおそれて、そのまま入院をつづけて治療をし、そのうち、原告の症状が悪化して退院させることができぬまま、治療をつづけ、その後も、同様の経過を繰り返した。

しかし、同医院の医師は、昭和四九年一月三〇日原告に対し、嘔吐の回数も少なくなり、治療費の支払もなかつたことから遂に退院をすすめ、原告は、同日同医院を退院し、引つづき数回同医院に通院したが、その後同病院に通院せず、同医院の指示を受けることなく後記福岡大学病院に転医した。

ことが認められる。

(三)  福岡大学病院麻酔科における原告の診断結果と治療経過原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一七号証並に原告本人尋問の結果によれば

原告は、昭和五〇年二月一四日、同病院で外傷後頸性頭痛の診断を受け、同月二八日から同病院に入院して治療を受けたが、その効果はあがらなかつた。そして、原告は、同病院の医師の紹介で後記森産婦人科医院に転医した。

(四)  森産婦人科医院における原告の診断結果と治療経過

証人森龍平の証言により真正に成立したものと認められる甲第三〇号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二九号証、証人森龍平の証言並に原告本人尋問の結果によれば

同医院の医師森龍平は、福岡大学病院麻酔科の外来患者を診察していたものであるが、前記のとおり原告が同大学病院に入院して治療を受けていたこと及び同大学病院の医師の紹介があつたことから原告を診察するようになり、前記同大学病院の診断に従い、昭和五〇年六月二七日から同年一一月一日まで同医院に原告を入院させて、原告に鍼灸、鎮痛剤、漢方薬内服等の治療をほどこしたが著しい変化がみられず、原告の症状の原因を自律神経―血管運動障害による頭痛に心因性反応が加つたもの、従つて、原告自身の精神状態の改善がなければ原告の病状の回復は困難と判断した。

ことが認められる。

以上の事実によれば、原告には脳乃至頸部の器質的変化が予測されるむち打ち症、外傷性頸椎症、頸部捻挫等に伴う前記症状が受傷以来森産婦人科医院退院の昭和五〇年一一月一日まで一進一退をなして五年四ケ月間にも亘つて継続し、なお、その後もその症状が持続しているものと推測されるが、前記事故の態様及び原告が前記のとおりヒステリー性格である疑いが濃く、自立心に乏しく我ままで依頼心が強いなどの性格があること、数人の医師から度重ねて慎重な検査を受けたが受傷の当初から何ら器質的変化が認められなかつたこと原告の病状の経過等を考えれば、長期に亘る右症状が持続するのは、将来の生活の不安や欲求不満等原告の心因的要素、前記性格的要素が原因をなしているもの、即ち外傷性神経症の疑いが極めて濃い。

ところで、原告が本件事故により受傷したことは当事者間に争いがなく、右傷害がいわゆるむち打ち症等器質的変化を伴うものと推認されるが、前記事故の態様及び前記のとおり受傷当初の永富整形外科医院による諸検査によつても、又その後転医した後の医師の諸検査によつても原告には何ら器質的変化が認められなかつたことを考えれば、その器質的変化を伴う傷害も軽微であつたものというべく、通常人であれば早期に回復し得たのに、原告の前記性格、心因的要素に加え、前記永富整形外科医院におけるギブス固定による治療が原告の右性格等に影響を与えるなどして次第に外傷性神経症に移行していつたものと推認される。

甲第三及び第七号証によれば、大塚外科医院の医師は、原告をむち打ち傷害と診断しているけれども、原告は、同医院に入院する数日前に永富医院の医師から通院治療相当との診断を受けて同医院を通院しているのであつて、むち打ち傷害の性質上前記認定のとおりの急激な病変が原告に起るものとは通常考えられず、その後の大塚外科医院の治療が効を奏しなかつたことを考えると、大塚外科医院における右診断の結果を直ちに採用することができない。むしろ、証人大塚正年の証言によれば、原告の右症状は前記のとおり原告の性格、心因的要素によるものと認められ、その治療の効果があがらなかつたのも、結局、原因の外傷は治癒したのに、原告に対し精神神経科による医療の必要性を告げることによつて、原告に与える衝撃をおそれてその治療をとることができなかつたためと考えられる。

証人永富整彦の証言によれば、原告が永富整形外科医院を退院したのは通院治療相当との診断を受けた結果であつて、原告が治癒したためではなく、なお、同医院退院後も治療の必要があつたことは明らかである。

原告の本件事故による傷害の治療のため、通常なおどの程度の通院治療期間が必要かについては、原告に現に前記症状が継続しているため諸般の事情を綜合して判断するほかないけれども、前記認定の本件事故の態様、原告の病状、治療の経過等を綜合して考えれば、なお三ケ月の通院治療を続ける必要があつたと認めるのが相当である。

次に原告のむち打ち傷害に基づく後遺症について考えるのに、原告には諸検査の結果、器質的には何らの異状が認められなかつたから、原告の後遺症としては外傷性神経症と認めざるを得ない。そこで、いわゆるむち打ち傷害による後遺症としての外傷性神経症について考えるのに、原告の前記神経症が本件事故がなければ発生することがなかつたであろうことは事実としても、事故後における被告らの態度に誠意があり、治療についての協力を惜しまなかつたことなどの事実があり、その神経症がそれにも拘らず原告の性格等に帰因するものと思料される時は、その損害の賠償を被告らの負担に帰せしめるのは公平の見地から相当ではなく、かかる場合、事故との相当因果関係は否定さるべきである。

ところで、原告の治療費中、昭和四五年七月六日から同年一〇月二〇日までの永富整形外科医院の治療費は自賠責保険の保険金から支払われ、同月二一日から昭和四六年一月二八日までのそれは被告会社から支払われたこと、同年二月四日から昭和四八年五月三一日までの大塚外科医院の治療費は、被告会社から支払われたことは当事者間に争いがない。そこで被告会社が支払つた金額について考えるに、成立に争いのない乙第四号証の一乃至三、第五号証の一乃至五、第六号証の一乃至第四、第七号証の一乃至一七並に被告会社代表者尋問の結果によれば、被告会社は原告の治療費につき永富整形外科医院に合計金四一万四七九四円、大塚外科医院に合計金二五八万三一四七円をそれぞれ支払つたことが認められる。

成立に争いのない乙第八号証並に被告会社代表者尋問の結果によれば、原告は、原告の夫佐藤正吉の被扶養者として前記被告会社が未払の治療費中大塚外科医院、福岡大学病院及び森産婦人科医院の治療費につき健康保険法に規定する保険給付を受けたが、その結果、被告会社は、大分社会保険事務所から健康保険法に基づく損害賠償請求を受け、請求金額金六四万三九六五円を同事務所に支払つた。

被告加藤志津代及び被告会社代表者尋問の各結果によれば被告加藤及び被告会社の代表者田口信男は、しばしば原告を入院先に見舞い、知人に治療が出来る人がいるからその治療を受けるようにすすめるなど誠意を示したのに、原告から顔を見るのも嫌だといわれて見舞を中断したところ、かえつて、見舞に来ないといわれるなどして困惑したことが認められる。

以上の事実からすれば、被告らとしては、原告に対し、相当の誠意をもつて傷病の慰藉をつくす態度を示しているものというべく、これに対して、原告の自己の傷病に対する態度には、前記その性格から来ると思われる医師、看護婦或は被告等を困惑させるものもあるのであつて、これらを綜合して考えれば、原告の本件神経症は原告の性格等に帰因するものというべく、本件事故と相当因果関係がないものと考える。

八  損害

(一)  休業損害 金二九万四〇九〇円

成立に争いのない甲第四号証及び証人後藤宣子の証言によれば、原告は、住友生命保険相互会社大分支社に保険外交員として勤務し、昭和四五年四月から六月までの間報酬として金一六万九八七〇円を受けていたことが認められる。原告は特段の事情がなければ永富整形外科に入院中及びその後通院治療に変つた期間三ケ月、合計一〇ケ月間は、右割合の収入をあげることができなかつたものというべきである。従つて休業損害は次のとおりとなる。

16万9,870円÷3×10=56万6,230円

ところで、原告が、入院期間中に訴外会社から金六五万三一四八円の報酬を受けたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第三四号証によれば、原告は、入院期間中の昭和四五年七月から昭和四七年六月までの間、保険に加入する見込客を同僚に紹介して募集を依頼し、その結果保険契約締結に至つた報酬としてこれを受領したものと認められる。従つて、原告としては、入院期間中も、右収入があつたものというべく、これを毎月の収入に換算すれば次のとおりとなる。

65万3,148÷24=2万7,214円

右金額は、原告が入院中も従来の職業経験を生かして毎月得ることのできたものというべく、右金額の一〇月分の合計は、前記休業損害から差引かれるべきである。

56万6,230円-2万7,214円×10=29万4,090円

従つて、原告の本件事故による休業損害は金二九万四〇九〇円とみるのが相当である。

(二)  治療費

前記認定のとおり、原告は、永富整形外科医院の治療費及び同医院を退院してから三ケ月の通院治療については、本件事故と相当因果関係にあるものとして被告らに対し損害賠償請求権を有するものというべきところ、被告会社が、永富整形外科医院に対し、自賠責保険金の支払によつて不足したすべての治療費を支払い、その後、数日して原告が再入院した大塚外科医院に対し、昭和四八年五月三一日までの治療費を支払つていることは当事者間に争いなく、右事実によれば、被告会社は右退院後三ケ月の治療費は勿論、本件交通事故と相当因果関係のない治療費までも相当額を支払つているものであつて、原告の被告らに対する治療費の請求は、すでに支払ずみであるから理由がない。

(三)  慰藉料 金三九万八二五一円

原告の病状、本件交通事故と相当因果関係のある入院、通院期間、治療状況、被告会社が支払つた治療費等諸般の事情を考えれば、原告の精神的損害を慰藉するには金五〇万円をもつて相当とする。

原告が、自賠責保険から慰藉料に対する保険金として金一〇万一七四九円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから被告らが原告に対して支払うべき責任のある慰藉料は金三九万八二五一円となる。

九  弁護士費用 金七万円

原告が本件訴訟委任をしたことにより支払うべき弁護士費用中、金七万円については相当因果関係があるものと認められ、右金額について被告らはその支払の責任がある。

一〇  被告らの過失相殺の主張

被告らの主張は、被害車の前を通過した訴外の大型貨物自動車運転者の過失を原告の損害額算定に当り斟酌すべきことを主張するものであつて、主張自体理由がないからこれを採用しない。

一一  以上のとおり、原告の本訴請求は右損害合計金七六万二三四一円及びこれから弁護士費用金七万円を差引いた金六九万二三四一円に対する本件記録上明らかな被告らに対する本訴状送達の翌日である昭和四八年一〇月一三日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行免脱宣言申立については相当でないからこれを却下する。

(裁判官 早船嘉一)

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